京都地方裁判所 昭和34年(行)18号 判決 1963年3月23日
原告 株式会社 やません
被告 中京税務署長
訴訟代理人 山田二郎 外四名
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 <省略>
理由
一、被告は原告に対し昭和三三年六月三〇日原告の営業初年度である自昭和三二年二月二七日至昭和三三年一月三一日事業年度(本件事業年度)の所得金額を二三二万一七〇〇円、法人税額を八七万八六八〇円、無申告加算税額を一七万五六〇〇円と決定し、その旨原告に通知したこと、そこで、原告は被告に対して再調査の請求をしたところ、被告は同年九月二五日右請求を却下し、その旨原告に通知があつたので、原告は更に昭和三三年一〇月一三日大阪国税局長に対して審査請求をなした結果、昭和三四年八月六日同局長は被告の再調査請求却下決定を全部取消すとともに、次のとおりの審査決定をなし、原告はその旨の通知を受けたこと。
審査決定 取消額
所得金額 一二二万五〇〇〇円 一〇九万六七〇〇円
法人税額 四四万円 四三万八六八〇円
無申告加算税額 一一万円 六万五六〇〇円
以上の事実については、当事者間に争いがない。
二、そこで、本件の争点である原告に対する本件事業年度法人税の課税標準について判断することとなるのであるが、原告は被告が原告の本件事業年度の所得を推計によつて算定した(この点は当事者間に争いがない。)のは不当であると主張するから、まずこの点から検討すべきものである。
原告が本件事業年度において、青色申告を提出することができる法人でなかつたことは当事者間に争いがないから、当時の法人税法第三一条の四第二項により、被告は原告の所得金額を推計することができるものといわなければならない。
よつて、進んで本件の場合、推計による所得金額の算定が妥当か否かについて考察しよう。
成立に争いがない甲第三、第四号証、公文書であるから真正に成立したと認める乙第四号証の一乃至四、証人池田效(一部)、同中村恵江(一部)、同吉村卯一郎(一部)の各証言を綜合すると、原告会社では本件事業年度の決算期(昭和三三年一月三一日)において、金銭出納帳(甲第四号証)、売掛台帳、買掛台帳を備付けていたが、同年二月上旬、原告代表者が汚職事件に連座し、右金銭出納帳を押収せられたため、貸借対照表損益計算書(財産目録等いわゆる計算書類が作成できなかつたこと、右金銭出納帳は同年九月下旬返還されたので、税理士吉村卯一郎の指導により右備付の諸帳簿により決算報告書(甲第三号証)なるものが作成せられたけれども、右決算報告書は株主総会の承認を経た正規の計算書額とは認められないこと、右金銭出納帳には科目、摘要欄及び金額の脱ろうが多く(例えば一頁、二月二八日支払金額二六万一四二五円、同五一〇〇円の科目、摘要欄の脱ろう。五八頁、七月二五日支払金額一万八六五五円の科目及び摘要欄脱ろう等)、又通常金銭出納帳において現金の日々の残高が赤字になるのは全くありえないことであるのに、右金銭出納帳の三月六日の残高は四八七一円の赤字になることが認められること、原告は昭和三二年一二月二五日、伏見信用金庫河原町支店において、二年契約の定期積金(契約高五〇〇万五〇〇〇円、一回払込金(月掛)二〇万円、満期日昭和三四年一二月二五日)に加入し、昭和三二年一二月二五日、同年同月乃至昭和三三年四月分までの合計五ケ月分の掛金合計金一〇〇万円を右金庫に払込んでいるけれども、原告の右決算報告書中の貸借対照表及び財産目録、右金銭出納帳には何らその旨の記載がなされていないこと、原告の調査にあたつた池田協議官が前記買掛台帳に基き仕入先を調査したところ、右台帳の記載と符合しない点が相当あつたことが認められ、前記各証言中右認定に反する部分は措信し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。
してみれば、原告の右諸帳簿はとうてい信用するに値しないものというべく、被告は原告の所得金額を推計して算定する以外に方法はなかつたものといわざるを得ない。
三、そこで、進んで被告のなした推計の方法が正当なものであつたか否かについて検討されなければならない。成立に争いのない乙第二号証、原告代表者尋問の結果によれば、原告は肩書住所地においてレストランを営む法人であつて、本件事業年度における年間平均稼動人員は一五名であつたが、成立に争いのない乙第一号証の一、二(大阪国税局作成の法人の効率手引)、証人山村秀雄の証言によれば、原告と営業場所、従業員数等業態の近似するレストランの昭和三二年度の年間従業員一人当収入金が一〇七万六〇〇〇円、その営業利益率が一割三分五厘であることが認められ、これらに基き、原告の本件事業年度の営業利益を推計すれば、被告主張の計算方法のとおり二〇二万三六九〇円となること計数上明らかである。しかして右乙第一号証の一、二及び右山村の証言によれば、右法人の効率手引なるものは、大阪国税局において所得申告の適否の判断と、所得推計の際の参考に資するために、管内の法人につき、その実体を完全に把握したものと思われるもののうち、中庸のもの若干例につき、その実体調査に基き各業種別にその収入金額、経費、営業利率等の基準金額及び率を算出した結果作成せられたものであつて、当裁判所は本件のような場合右効率の手引に基き且つ被告主張のような方法で営業利益を推計することは他に特段の事情がない限り合理的なものであると考える。尤も、原告は本件事業年度は初年度であつて通常の営業をなしうる筈がない旨主張するが、原告代表者本人尋問の結果によると、原告の店舗は前主(春陽堂)の時代からレストランに使用せられていたものを原告が譲受けたものであることが認められ、初年度といつても、広告宣伝等に特別の支出を要したものといいがたく、原告主張の初年度という事情を考慮に入れても、被告の右推計方法を以て不当なりとすることはとうてい許されない。しかして、他に被告の右推計方法を不合理ならしめるような特別の事情が存したと認めるに足る証拠はない。
ところで、右推計によつて計算した原告の営業利益には営業外損金は考慮されていないので、原告の課税標準とされる所得は右営業利益より営業外損金を控除したものと解すべきところ、原告の営業外損金のうち、不動産登録税が二六万一四二五円、不動産取得税が一六万六二一〇円であることは当事者間に争いがなく、支払利息については原告は三九万五四九六円であると主張し、被告は三七万一〇五二円であると主張するので三七万一〇五二円の限度では当事者間に争がないものといわねばならぬ。原告の主張に添う甲第三号証の記載は甲第四号証の記載と符合しないところがあるばかりか、そもそも右甲第三、第四号証が信用に値しないものであること前記のとおりであり、他に右限度をこえて原告主張事実を認めるに足る証拠はない。それ故、支払利息については当事者間に争いがない三七万一〇五二円の限度でこれを認めるのが相当である。しかして原告に他に営業外損金があつたと認めるに足る証拠はない。
してみれば、右推計によつて得られた原告の本件事業年度の営業利益から右三種目の営業外損金を控除した金一二二万五〇〇三円を以て、原告の本件事業年度の所得金額とした本件決定には何ら違法の点は見出されない。
よつて、本件決定を違法なりとしてこれが取消を求める原告の本訴請求は失当であつてこれを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 増田幸次郎 乾達彦 片山欽司)